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2022/08/13

【シリーズ】前略、後継ぎをお探しのオーナー社長さまへ  Vol.3_「知的資産経営」と事業承継

記載者情報
はじめに
このシリーズの「Vol.1_『概要書』で企業価値をUP!」 では、〈大企業と比べて財務基盤がぜい弱な中小企業のM&Aにおいては、固有の「知的資産」こそが、会社や事業の「強み」や「魅力」であって、「競争力の源泉」となっている点に着目して「概要書」を作成すべき〉、とお伝しました。 コラムを読んで頂いた方より、「もっと詳しく知りたい。」といった感想やご意見を頂くことができました。 今号では、中小企業や小規模事業者の成長・発展そして継続という視点から、「知的資産経営」をテーマに採り上げてみました。 本稿の後半では、「親族内承継」「社内承継」「第三者承継」の3つの「事業承継」における活用方法についても、お伝えします。 ぜひ、最後までご一読ください。
知的資産
一般的に、「〝広義の意味〟の知的資産」は、以下の①+②+③ と考えられています。  ①「〝狭義の意味〟の知的資産」:人材、技術、組織力そして顧客とのネットワークなど、それぞれの企業に内在する財務諸表に数値で表されない価値。  ②「知的財産」:ブランド、営業秘密など、権利や利益などを侵害をされた場合には「不正競争防止法」によって争う価値。  ③「知的財産権」:産業財産権である特許権、実用新案権、商標権、意匠権や著作権など、法律によって権利化されている価値。   ※本稿では〝広義の意味〟の知的資産と〝狭義の意味〟の知的資産を区別するため、以下、単に「知的資産」と言う場合には、前者を指します。 すなわち、知的資産とは、それぞれの企業や事業の〝魅力〟や〝強み〟であり、収益を生み出す〝競争力の源泉〟となる〝目に見えない価値〟のことです。 知的資産は、「人的資産」、「構造資産」、「関係資産」の3つに分類されます。  ・人的資産とは、従業員の退職に伴って社外に持ち出されてしまう個々の役員・従業員に固有の無形資産。  ・構造資産とは、人的資産を役員・従業員の退職時に持出せない企業固有の無形資産に転換させるシステム、マニュアル、契約などの仕組み。  ・関係資産とは、販売先、仕入先、外注先、提携先そして取引金融機関など企業の対外的な関係に付随した無形資産。
知的資産経営
知的資産を構成する人的資産、構造資産、関係資産の3つを有効に組み合わせて経営をデザインし、自社の収益に繋げたり、企業価値を向上させていく経営を「知的資産経営」と呼んでいます。 知的資産経営の取組みは「内部マネージメント(以下のa~e)」と「外部マネージメント(以下のf)」から構成されており、〈 a→b→c→(d🔄e)⇌f 〉 とういうフローになります。  ・内部マネージメント    a.「SWOT分析」などを活用して、自社の〝魅力〟や〝強み〟を棚卸しする。      ※特に、〝狭義の意味〟の知的資産は、経営者以外には十分に認識されていない場合が多い点に留意。    b.過去の実績などから、自社の〝魅力〟や〝強み〟が、どのように収益に繋がっているかを分析・把握し、経営方針を明確にする。      ※非財務の情報が財務諸表に表れている数字とどのように結び付いているのかを意識しておく。    c.経営方針の実現に向けて大まかな目安となる「指標」を設定する。      ※「KGI(Key Goal Indicator)=重要目標達成指標」やコアな部分の「KPI(Key Performance Indicator)=重要業績評価指標」などを特定。    d.「知的資産経営報告書」を作成する。      ※自社の潜在能力を可視化し、全社的に意思共有を図る。    e.知的資産経営を実践する。      ※KGIやKPIを測定し、PDCAサイクル(🔄)を回していく。  ・外部マネージメント    f.ステークスホルダーに、知的資産経営報告書を開示する。      ※開示する情報や見せ方は、開示する目的やステークスホルダーによって変える。 知的資産経営報告書は、従業員や求職者、取引先、地域社会そして金融機関や投資家などのステークスホルダーに対し、信憑性の高い情報を提供し、自社の将来性について正しく評価してもらうために作成するものです。 前述のとおり、開示する目的やステークスホルダーによって、開示する情報や見せ方は異なりますが、本質の部分は共通しています。
「親族承継」をお考えのオーナー社長さまへ
現経営が企業や事業を〝子や親族〟に承継する「親族内承継」を予定されている場合には、現経営者と後継者が協働して知的資産経営報告書を作成されることをおススメいたします。 親族内承継では、近しいが故に、現経営者と後継者がお互いの〝ギャップ(違い)〟を認識するためのコミュニケーションが不足している場合が少なくはありません。 知的資産経営報告書を作成するプロセスは、現経営者と後継者のギャップを埋めていくための有効なコミュニケーションになり得ます。 なお、役員・従業員も参加させたプロジェクトで取組む場合には、プロジェクトメンバーの社歴、年齢、性別、部署などに対する十分な配慮が必要です。 知的資産経営に精通している専門家の協力を得て、プロジェクトの構築から知的資産経営報告書の作成まで、そして、構築した知的資産経営の枠組みや知的資産経営報告書の有効な利用方法などのアドバイスやサポートを受けることによって、円滑に事業承継を進めていくことが期待できます。
「社内承継」をお考えのオーナー社長さまへ
現経営者が長く一緒に働いてきた親族外の役員・従業員または取引先やメインバンクなどの外部から幹部として招聘した人材などに承継する「社内承継」の場合には、現経営者は一歩引いて、後継者へバトンタッチした後の「経営チーム」を中心とした社内プロジェクトで、知的資産経営報告書を作成してみられることをおススメいたします。 社内承継の後継者は、自社の業務内容、得意先そして来歴について熟知している一方で、自らに与えられた「Mission(使命)」に対しては忠実であっても、新しい取組みにチャレンジしていく起爆剤となり得るような「Passion(情熱)」は控えめな「調整役タイプ」の人材が多い傾向にあります。 知的資産経営報告書の作成は、後継者が積極的に他の役員や幹部社員に対するリーダーシップを発揮していく契機となり、また、経営チーム全体の意識改革が進み、広い視野から、新たな成長・発展の「機会(チャンス)」を見出していくことも期待できます。 この場合、現経営者の大切な役割は、事業承継後を見据えて、後継者の相談相手となり得る中小企業のマネージメントに精通したゼネラリストタイプの専門家を新たに見つけ出し、後継者が能力を発揮しやすい環境を整えていくことです。
「第三者承継」をお考えのオーナー社長さまへ
M&A(会社譲渡や事業譲渡など)による「第三者事業承継」の場合は、2つの観点から、知的資産経営報告書をベースに「IM(Information Memorandum)=企業概要書・事情概要書」を作成されることをおススメいたします。  ・見える化:自社を譲渡する買い手(譲受企業)において、シナジー(相乗効果)が理解しやすくなる。  ・魅せる化:買い手(譲受企業)に対し、財務諸表に数字で表れない自社の無形価値を正確に伝えることができ、適正な評価が受けやすくなる。 この場合、自社が依頼を予定しているM&Aアドバイザーと協議し、IMの作成については、知的資産経営報告書の作成に精通した専門家との協業を検討されては如何でしょうか。
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スカイ・スクラッパーズ株式会社 https://sky-s.com/ バトンズM&A相談所 大阪本町センター店 https://batonz.jp/adviser/our_ma_counseling_offices ●担当:田村
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【シリーズ】前略、後継ぎをお探しのオーナー社長さまへ   ・Vol.1_『概要書』で企業価値をUP!   https://batonz.jp/adviser/articles/2782  ・Vol.2_未来志向の『概要書』を伝授!   https://batonz.jp/adviser/articles/2786
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