中小企業支援
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2023/06/22

【シリーズ】どうなる!?中小企業経営_Vol.1 産業全体に影響を及ぼす「物流業界の2024年問題」

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働き方改革と「時間外労働の上限規制」
わが国では、少子高齢・人口減少が進み、労働力の不足が顕著となっています。 2018年6月には、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を実現できることを目的として「働き方改革関連法」が成立し、大企業では2019年4月1日から、中小企業においては2020年4月1日より、<時間外労働の上限規制>が順次施行されてきました。 これにより、「時間外労働の上限」は、原則として<月45時間・年360時間を超えないこと>となりました。 例外的に<臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合>には、<複数月平均で80時間以内(休日労働を含む)・年720時間以内・月100時間未満(休日労働を含む)>となっています。 これは、健康障害に発展する恐れのある時間外労働時間を表し、労災認定で用いられている「過労死ライン」と同じ基準です。 しかしながら、一部の職種については、その特性上、これを超える長時間労働になりやすく、その是正には時間がかかるため、2024年3月31日まで猶予されています。 その中に、トラック・バス・タクシーなどの「自動車運転業務」があります。
「物流業界の2024年問題」とは...
2024年4月1日には、「自動車運転業務」の<時間外労働の上限規制>が施行され、<年間の時間外労働時間の上限が、960時間を超えないこと>となります。 特に、中・長距離のトラックドライバーの長時間労働は常態化しています。 そのため、物流業界では、<時間外労働の上限規制>が施行されることによって、さまざまな「課題」を抱えています。 「物流業界の2024年問題」とは、この「課題」の総称のことです。
産業全体に及ぼす負の影響
トラックドライバーの長時間労働の是正自体は望ましいことです。 しかしながら、長時間労働が常態化してしまっている背景には、物流業界の多重下請け構造、立場の強い荷主や元請け運送会社による過大なサービスの要求、ネット通販の利用拡大による物量の増加、そして人口減少による人手不足など多岐に渡る課題があります。 その一方で、1990年の業界参入の規制緩和以降、中小の運送業会社の事業者数が急増し、過当競争に陥ってしまっている状況です。 そのため、中小の運送業会社においては、値上げ交渉は容易ではありません。 これらの課題や状況が解消されないまま、<時間外労働の上限規制>が施行されれば、トラックドライバー一人当たりで運べる荷物の量が減って運送業会社の利益を圧迫し、また、トラックドライバー自身も残業手当や歩合給などの収入が減ってしまいます。 その結果、中小の運送業会社の廃業や倒産が増加したり、トラックドライバーの他業種への転職が増えたりすれば、輸配送の分断や停止が起こり、サプライチェーンが寸断されてしまう懸念があります。 物流は、重要な社会インフラです。 これが機能不全の状態に陥れば、多岐に渡る産業において、既存のビジネスモデルが崩壊してしまいます。
「モノが届かなくなる」社会への対応
近年、私たちは、大規模な地震や台風、大雨などの自然災害や新型コロナなどの感染症拡大(パンデミック)などによって、「モノが届かなくなる」という苦い経験を強いられてきました。 先ずは、物流に着目した「BCM(Business Continuity Management、事業継続マネジメント)」の手法を模して、「モノが届かなくなる」という状態を自社内やステークスホルダーに浸透させ、それを前提に、既存のビジネスモデルを見直し、「物流業界の2024年問題」への対応へと繋げていく手法も考えられます。 中小企業の限られた経営リソースの中で、短期間で「モノが届かなくなる」社会に対応し、ビジネスモデルを再構築することは容易ではありません。 M&Aや事業譲渡などを活用した「事業の選択と集中」は、その有効な手段となり得える場合があります。
お問合せ・ご相談先
スカイ・スクラッパーズ株式会社 https://sky-s.com/ バトンズM&A相談所 大阪本町センター店 https://batonz.jp/adviser/our_ma_counseling_offices ●担当:田村
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